「現代マネジメント研究」第5回 伊藤知子氏 講義

2023年度 中部学院大学・シティカレッジ関・各務原公開講座

第5回 「不易流行」

十八楼取締役・長良川温泉女将会会長
伊藤 知子 氏

第5回「現代マネジメント研究」は6月5日、岐阜市の長良川河畔で創業百六十年の伝統を誇る老舗旅館の女将・伊藤知子氏を招いて開かれた。伊藤氏は経営理念として俳聖・松尾芭蕉の不易流行という言葉を挙げ、「変えてはならない本質的なこと、時代に合わせて変えるべきことを見つめ、地域貢献とともに人を大切にする経営をしていきたい」と語った。
伊藤氏の祖母は済美学院の女学校出身で、本学との縁が深いことから講義が実現した。はじめに伊藤氏は「私は旅館の娘に生まれたが、経営は祖父や父がしており、祖母や母は専業主婦だった。私も当初は女将になるつもりはなく、良いお嫁さんになりたいと思っていた」と意外なエピソードを披露した。

経営理念である「不易流行」について語る伊藤女将 経営理念である「不易流行」について語る伊藤女将

高度成長期やバブル経済が終わり、旧来の旅館経営が難しくなった時、伊藤氏はトヨタ系列の大手企業を退職した夫とともに、女将として経営を担う決心をした。その経営理念を支えたのが松尾芭蕉の言葉として有名な「不易流行」だったという。
「不易流行とは変えてはいけない本質的なことを大切にしつつ、時代によって新しい変化も取り入れるという意味。高度成長期に旅館は増築を繰り返し、お客様は男性の団体客が中心だった。ところがバブル経済の崩壊後は旅行の形態もドラスティックに変化した。個人やグループのお客様が中心になり、女性客も増えた」と振り返った。
自然と歴史、文化に恵まれた観光地・長良川河畔の老舗旅館として続いてきた十八楼だが、当時の大手旅行社のアンケート調査ではお客様満足度が地域で最下位になった。団体客は減少し、社員にも離職者が増加。旅館も老朽化していたが、どのように建物を改装したら良いか分からない状況だったという。
「旅館のブランド力がなければお客様からも従業員からも選ばれない」と考えた伊藤氏。最初の目標として十八楼のあるべき姿を見つけようと動き出す。十八楼の歴史をひもとく中で、松尾芭蕉が江戸時代中期に何度か岐阜を訪れ、長良川の鵜飼を楽しんだことを知った。芭蕉が長良川の岸辺に立つ水楼からの美しさを褒めたたえたことが紀行文「十八楼の記」に残されている。旅館の名称の由来であり、江戸時代末期の万延元年に山本屋と呼ばれていた旅館が十八楼と改名して今に至ることが分かった。川を渡る船の商人宿から鵜飼の宿、岐阜を代表する観光旅館として発展してきた歴史と魅力を再確認できた。

講義の中で学生に将来の目標を考えるよう優しく語りかける女将 講義の中で学生に将来の目標を考えるよう優しく語りかける女将

伊藤氏は学生に対して「皆さんが岐路に立った時、自分の目的や夢のために避けられない時には、あえて困難な道を選んでほしい」と呼びかけた。そして「近江商人の経営哲学に三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)がある。私も三方よしでお客様や地域の人たち、取引先や関連会社の皆さんにも幸せになってほしい。不易流行と地域貢献、そして人を大切にすることーの三つを経営理念にしていきたいと考えた」と話した。
十八楼のブランド力を高めるため、旅館の建物は古い町並みに溶け込むよう格子作りを生かして改装。館内の段差をなくしてユニバーサルデザインに配慮し、個人客のニーズに合わせて露天風呂付きの客室も増やした。明治時代の古い蔵を買い取り、和風レストランや大浴場にリニューアル。お客様には無料のアクティビティとして「戦国ミニツアー」「川原町散策ツアー」を提案した。こうした取り組みが評価され、全国の温泉旅館やホテルの中から「五つ星の宿」を獲得し、従業員を大切にする岐阜県の「ワーク・ライフ・バランス推薦エクセレント企業」にも選ばれた。今年五月からは廃業していた旅館をリノベーションし、滞在型で一棟貸し切りの「宿いとう」をオープンさせるなど新たな挑戦も始めている。

伊藤氏はメジャーリーグの大谷翔平選手の「目標達成シート」に触れ、「大谷選手は高校時代に球速160キロのスピードボールや8球団からのドラフト1位指名など、具体的な夢や目標をシートに書いていた。中には運気を引き寄せるためゴミ拾いや挨拶をすることも書かれていた」と紹介。学生に対して「皆さんは自分の目標や夢を考えたことはありますか。資格を取ることが学生時代の目標ではない。その資格を使って自分がどんな人間になり、どんな人生を送るのか大きな目的を決めてほしい」と優しく語りかけ、応援のエールを送った。

(文責 碓井 洋、写真 根尾 文吾・渡辺 高也)

老舗旅館の経営理念に耳を傾ける学生たち 老舗旅館の経営理念に耳を傾ける学生たち
御礼の言葉ととともに閉会の挨拶を述べる江馬学長 御礼の言葉ととともに閉会の挨拶を述べる江馬学長

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