2025.05.26
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「現代マネジメント研究」第3回 櫻井宏氏 講義
2025年度 中部学院大学・シティカレッジ関・各務原公開講座
第3回 「食料安全保障」
ぎふ農業協同組合代表理事会長
櫻井 宏氏

「現代マネジメント研究」第3回の公開講座は5月26日、関キャンパスで開講され、ぎふ農業協同組合代表理事会長の櫻井宏氏が講演した。同講座には教育学部、人間福祉学部、スポーツ健康科学部、短期大学部の学生と聴講を申し込んだ一般市民ら合わせて約160人が出席した。
はじめに櫻井氏はコメの価格高騰に歯止めをかけるため小泉進次郎農相が備蓄米放出を発表したことに触れ、「米の価格が五キロ四千円台と従来の二倍になり、令和のコメ騒動と言われている。生産者の農家にとってもコメの高止まりは好ましくない。JA全農が入札で購入した後、精米や輸送、保管などにコストがかかっている。コメ不足の原因としては新型コロナ後のインバウンド消費でコメの需要が伸びたこと、気候変動に伴う高温でコメの品質低下の影響も考えられる」と背景を説明した。

講義のテーマに掲げた「食料安全保障」については、豊富なスライドを投影しながら説明。「食料安全保障とはすべての国民が将来にわたって良質な食料を合理的な価格で入手できるようにすること」と述べ、安全保障を脅かすリスクとして①食料自給率の低迷②農業生産基盤の弱体化③世界的な人口増加➃気候変動の影響⑤国際化の進展—など五つの課題を挙げた。食料自給率の低迷では、カロリーベースで日本の自給率は38%、岐阜県だけを見ても26%しかなく、50%超から200%超のカロリーを持つ欧米諸国との違いを指摘。「日本は45%のカロリー実現を目指している。過度の輸入超過になっており、農薬や農作物原料も外国に依存している現状を改善しなければならない」と強調した。
また農業生産基盤の弱体化では、農家の減少や従事者の高齢化について「農業資材の値上がりで生産者の経営は苦しく、コスト上昇分が価格転嫁できていない。今後も農業を続けていくためには合理的な価格形成が必要」と窮状を訴えた。世界的な人口増加が進む中で供給が追い付かず、地球温暖化の影響で少雨や暴風雨、熱波などの異常気象が起き、農産物の収量低下が起きているとし、「未来世代のために地球環境の保全を考えていかなければ」と力説した。

昨年五月、国は二十五年ぶりに食料・農業・農村基本法の策定を行った。櫻井氏は「食料・農業・農村基本計画も作られ、食料自給率の向上など農業政策に関して中長期的に取り組むべき方針を定めた。コメについてもかつての減反政策を見直し、令和九年度以降の水田政策を定めている」と紹介した。
JA岐阜の取り組みとして農作物の「地産地消」に力を入れており、「イベントを通じて県産の農畜産物をアピールし、県内に三十五か所ある直売所では消費者と生産者の交流を図っている。子ども食堂への支援や一人暮らしの高齢者への弁当配食サービスも行っている。小学五年生で農業体験する授業があるが、もっと子どもの食農教育の機会を増やしたい。援農ボランティア、アグリツーリズムにも意識して取り組んでいる」と強調。「もっと多くの人にJAグループの取り組みを知ってもらい、食と農業、農村に関心を持っていただきたい」と結んだ。
学生から「AIを農業に生かし、共同経営で農業の大規模化を図れば生産量も伸びるのでは」と質問があった。櫻井氏は「現在は大型の法人化された農家と個人農家が半々。法人化をどんどん進めることも選択肢の一つであり、個人農家でも今後はAIやDXの技術を積極的に活用していきたい」と答えた。
(文責・碓井洋 写真・野尻信一郎、小林康将、林憲一)

