「現代マネジメント研究」第6回 伊藤知子氏 講義

2024年度 中部学院大学・シティカレッジ関・各務原公開講座

第6回 「不易流行のおもてなし」

十八楼取締役・長良川温泉女将会会長
伊藤 知子 氏

第6回「現代マネジメント研究」は6月17日、創業百六十年の歴史を持つ岐阜市の老舗旅館十八楼の女将・伊藤知子氏を招いて開かれた。伊藤氏は松尾芭蕉の「不易流行」という言葉を挙げ、学生に「大切なものを残していくためには、本質を守りつつ時代が求める価値観に合わせて変化しなければならない」と語り掛けた。

スライドで十八楼の歴史や川原町の景観を語る伊藤女将 スライドで十八楼の歴史や川原町の景観を語る伊藤女将

伊藤氏は現在、三人の子どもを育てる母親であり、十八楼など三つの会社の経営者でもある。行政、大学、地域の公的な委員を務め、旅館経営と同時にまちづくりや教育にも力を入れてきた。長良川温泉女将会や川原町まちづくり会として地域のプロモーション活動や観光PRに活躍。他方で教育にも力を入れ、岐阜市教育委員、地元大学の経営委員を務めている。伊藤氏は「未来を切り開いていくのは子どもたち。観光は地域の光を見せる産業とも言える。ふるさとに誇りを持ち、将来活躍できる子どもたちを地域ぐるみで育てていきたい」と意気込みを話した。

老舗旅館とはいえ、十八楼の経営は順風満帆だったわけでなない。70年代の高度成長期に旅館は増築を繰り返し、お客様は男性の団体客が中心だった。ところがバブル経済の崩壊後は旅行もドラスティックに変化し、売り上げは低迷。大手旅行社のアンケート調査でお客様満足度が地域で最下位になったこともある。団体客は減少し、社員に離職者が増加。旅館の建物も老朽化していたが、どのように改装したら良いか分からない状況だった。

登壇ステージから降りて「人生の目標、目的を考えてください」と学生に語り掛ける伊藤女将 登壇ステージから降りて「人生の目標、目的を考えてください」と学生に語り掛ける伊藤女将

大手企業を退職して旅館を継ぐと決めてくれた夫とともに、女将として経営を担う決心をした伊藤氏。「旅館のブランド力がなければお客様からも従業員からも選ばれない」と考え、十八楼の歴史を調べる中で松尾芭蕉が江戸時代中期に岐阜を訪れ、長良川の鵜飼を楽しんだことを知った。芭蕉が長良川の美しさを褒めたたえたことが紀行文「十八楼の記」に残されており、江戸時代末期に山本屋と呼ばれていた旅館が十八楼に改名したことも分かった。

旅館の原点となるブランド力を見つけるとともに、伊藤氏は「不易流行」と「おもてなしの心」を経営理念に掲げた。「不易とはいくら世の中が変わっても変わらないもの。変えてはいけない、軸になるもの。流行とは世の中の変化とともに変わっていくもの」と考え、和風旅館の文化を守りながら和室にベッドや露天風呂のある部屋を作り、朝食をバイキング形式にし、ICTを活用してお客様の利便性を向上した。さらに「おもてなしは相手を重んじて心を込めて接することであり、新しいアイデアや工夫を取り入れ、相手の満足度以上に喜んでいただければリピーターにもつながる」と接客に努め、個人客や女性客を増やした。

 伊藤氏は「私は当初は女将になるつもりはなく、良いお嫁さんになりたいと思っていた」と意外なエピソードを披露。夫が旅館を継ぐと言いだした時、自分が家業を継ぐ目標、人生の目的を定めたという。それはお客様も従業員も地域も幸せにしたいーという強い思いであり、不易流行と地域貢献、人を大切にするという三つの言葉だった。 
講義の最後に伊藤氏はメジャーリーグの大谷翔平選手の曼陀羅サークル(目標達成シート)を紹介し、「大谷選手は高校時代から具体的な夢や目標をシートに一つ一つ書いて実現してきた」と指摘。学生に対して「皆さんは自分の目標や夢を考えたことはありますか。教員や保育士を目指す学生もいるでしょう。でも資格を取ることは目標、手段であって人生の目的ではない。その資格を使って自分がどんな人間になり、どんな人生を送るのか大きな目的を決めてほしい」と優しく語り掛け、応援のエールを送った。

(文責 碓井 洋、写真 野口 晃一郎)

経営理念である「不易流行とおもてなし」について語る伊藤女将 経営理念である「不易流行とおもてなし」について語る伊藤女将
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