2025.07.03
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「現代マネジメント研究」第6回 尾関健治氏 講義
2025年度 中部学院大学・シティカレッジ関・各務原 公開講座
第6回「今は何ものでもない あなたへ」
松下政経塾塾頭 元関市長
尾関 健治氏
「現代マネジメント研究」第6回の公開講座は6月23日、関キャンパスで開講され、松下政経塾塾頭で元関市長の尾関健治氏が講演した。尾関氏は本学の客員教授でもあり、同講座には教育学部、人間福祉学部、スポーツ健康科学部、短期大学部の学生132人と聴講を申し込んだ市民38人が出席した。


尾関氏は「私はいま五十二歳。皆さんと同じ三十二年前の二十歳の自分に対して、何を語れるかを考えて話したい」と切り出した。尾関氏は「私が政治家になろうと思ったのは高校時代。80年代後半にリクルート事件という政財界を巻き込んだ汚職事件があった。公平、公正であるべき政治が金や権力で左右されることに怒りを覚えた。世のため、人のために働きたいと思い、将来は地元の関市長になろうと決めた」と振り返った。
大学では一年留年して国会議員秘書を務め、政治を基礎から学ぶため松下政経塾に入塾した。塾から給料をもらいながら市役所のインターン研修や米国研修にも参加した。周囲から見れば恵まれた環境だったが、尾関氏は「塾では自分で研修テーマを設定し、いわば自由放任主義。どうすれば政治家になれるのか将来が見えず、もどかしく不安な時期だった」と語る。
松下政経塾はパナソニックの創業者・松下幸之助氏が1979年に創設した。国家百年の大計という長期的ビジョンがない日本社会を憂い、私財を通じて塾を創設。これまでに多くの政治家、企業経営者、教育者を輩出してきた。卒業した尾関氏も三十四歳で関市議に当選。念願の関市長には三十九歳で初当選し、五十一歳までの三期十二年間、市政の舵取り役を務めた。
自らの信条として尾関氏は「トイレのスリッパ」を挙げた。「散らかっているトイレのスリッパに気づいたらそろえなさいと高校の恩師に教えられ、誰も見ていなくてもスリッパをそろえた。論語に『徳は孤ならず必ず隣あり』という言葉がある。徳のある人は決して孤立せず、必ず理解者、協力者が現れる」と学生に語りかけた。
「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助氏の言葉である「雨が降れば傘をさす」、リーダーとしての心構えにつながる「衆知を集める」、 自分の考え方、信念がないと物事が進まない時の「主座を保つ」など、松下氏の名言を学生に分かりやすく解説。「リーダーにとって大切なことは正しいことを言うだけではない。時には何を語るかより誰が語るかだ」と持論を述べた。
日本はこれからどんどん人口が減り、少子高齢化、年金問題、労働力不足などが社会に大きな影響を及ぼす。女性が一生の間に産む子供の平均数である合計特殊出生率は下げ止まらず、ジェンダーギャップ指数も日本は世界118位。経済成長率や国民一人当たりのGDPもインド、ベトナムなど各国が追い上げ、日本のランキングは低下していく。
日本の将来の厳しさを指摘した尾関氏は「経済的自立と早期退職を示すFIRE(ファイア)という言葉があるが、今から経済的自立は意識した方がよい。最高の投資とは自分自身への投資。皆さんが大学に籍を置き、福祉や教育などの資格を取ろうとしていることがその投資。ハーバード大学の研究によると、人間の幸福の最大要因は良き人間関係。家族、友人、職場などで良き人間関係を大事にすることが幸福につながる」と述べた。
尾関氏は最後に勉強する方法としてライフネット生命創業者の出口治朗氏が提唱した「人、本、旅」を紹介。「多くの人に会い、コミュニケーションを深めよう。ネット社会で本を読む人は減っているが、知へのアクセスとして本を読もう。市長を辞めてから私は二か月間で世界二十カ国以上を旅した。皆さんは学生のうちにぜひ知らない場所を旅行し、自分の目で見聞を広めてください」とエールを送った。


(文責・碓井洋 写真・野尻信一郎、小林康将)