2025.06.25
- 大学からのおしらせ
- 地域・企業
「現代マネジメント研究」第5回 福田克則氏 講義
2025年度 中部学院大学・シティカレッジ関・各務原公開講座
第5回 「利益を生み出す『放任主義経営』」
福田刃物工業代表取締役社長
福田 克則 氏

現代マネジメント研究第5回の公開講座は6月9日、関キャンパスで開講し、福田刃物工業の福田克則社長が講演した。教育学部、人間福祉学部、スポーツ健康科学部、短期大学部の学生130人と市民30人が受講した。
福田刃物工業は明治29年(1896年)に創業した老舗の工業用機械刃物メーカー。福田氏は愛知県の高校を自主退学し、米国ボストンのサウスケントスクールに留学。ボストンカレッジを卒業し、帰国後はNECに入社して半導体事業を担当した。NECの五年間の勤務を経て平成9年(1997年)に関市に戻り、父親の会社に入社した。
福田氏は「父親からは大企業から逃げてきたのかと言われたが、図星だった。しかし専務となり、社員からは会社を変えてくれという強い気持ちを感じた」と振り返る。当初はノルマを掲げて会社を改革しようとしたが、思うように進まなかった。

転機になったのが平成20年(2008年)のリーマンショックだ。売り上げは前年対比で40%マイナスとなり、友人の経営者からも「情けない」と言われるほどの落ち込みだった。師事していた電気資材設備メーカー・未来工業の山田昭男社長からは「中小企業の跡取りは勘違いしている。権限があっても能力があるわけでなく、社員に命令ばかりしている」と言われた。「自分の社長としての権限をどう生かすべきか」—。福田氏の考えた結論は社員にすべて任せる「放任主義経営」だった。
社員に任せ、社員のやる気を引き出してモチベーションをアップしたところ、業績は次第に上向き始めた。福田氏は社員からの相談は受けるが、自身は営業にも製造にも口を出さなくなった。工場にもあまり行かず、採用も若い世代に任せた。その一方で社員から改善の提案を集め、提案一件には千円を出した。年間六百件近い提案があり、六十万円かかるが「安いものだ」という。業績は上向き、平成22年(2010年)から本年度までの売り上げは十六年連続で前年比プラスとなっている。
「放任主義経営で社員からは自分たちに任せてくれるのは有り難いと言われ、勤務時間や休日などの働き方も社員主導で決めている。五年前からは朝礼も止めた。わが社にはホウレンソウ(報告、連絡、相談)もない。経営会議にも社長は出ない」と福田氏。新型コロナ禍の際には営業活動が減少すると思ったら旅費、交通費はむしろ増え、営業社員が自ら新規の取引先を開拓した。「日本には三百万社もの法人企業があるのに、よくぞわが社を選んでくれたと社員には感謝の気持ちでいっぱいだ」と話す。

紙幣の裁断や廃棄物を粉砕する工業用機械刃物メーカーの同社だが、二年前に消費者向けに発売した包丁「KISEKI:」が大ヒット。弟で技術者の恵介氏が開発し、鋼、ステンレス、セラミックに続く第四の刃物・超硬合金包丁として注目され、日本デザイン振興会のグッドデザイン賞を受賞した。昨年は五億円分を受注し、入荷まで十五ヶ月待ちの大ヒット商品となっている。
講義では超硬合金包丁のPR映像を流し、「超硬合金は切れ味がよく、硬くて薄くて軽い。食物の繊維をつぶさないため野菜を切ると美味しさが増す。包丁の体験ツアーをしているのは全国でもうちだけ。テレビ番組でも取り上げられ、爆発的に売れた。将来は世界で認められるブランドに育てていきたい」と高い品質に胸を張った。
福田氏は「社員には去年よりは今年とベストを更新するように言っている。経営者として余分なことはせず、経営計画もないが、業績は社長の人格でもある」と持論を展開。学生に向かって「皆さんも就職して会社に入ったら、職場でどんどん質問してほしい。自分の意見を持つことも大事だが、議論する際には先輩や同僚など相手の意見もしっかり聞いてほしい。それが必ず自分のためにもなる」とアドバイスした。(文責・碓井 洋、写真・野尻信一郎、小林康将)

