「現代マネジメント研究」第8回 若井あつこ氏 講義

2023年度 中部学院大学・シティカレッジ関・各務原公開講座

第8回 「現代社会におけるスポーツの使命とは」

岐阜県議会議員・中部学院大学空手道部監督
若井 あつこ 氏

「本当の強さとは挫折から立ち直る力」と語りかける若井あつこ氏 「本当の強さとは挫折から立ち直る力」と語りかける若井あつこ氏

「現代マネジメント研究」第8回の公開講座が7月10日、関キャンパスであり、県議会議員で本学の空手道部監督を務める若井あつこ氏が講演した。同講座は各界のトップリーダーを講師に招き、グローバルな視点とマネジメント能力を持つ人材の育成を目的に開講している。教育学部、人間福祉学部、短期大学部の学生や一般市民ら約130人が参加し、本学と西濃運輸の空手道部員10人も聴講した。
 空手の道着姿で登壇した若井氏は現役時代の輝かしい戦績を振り返り、「世界の女王 怒涛の4連覇」の映像をスクリーンで紹介。2004年(平成16年)にメキシコで行われた世界空手道選手権で四連覇を達成した際の大技「スーパーリンペイ」について解説した。この四連覇は「ギネス世界記録」にも認定されている。
 当時の若井氏は国内の全日本選手権で八連覇、国体は五回優勝を果たし、県民栄誉大賞、JOC(日本オリンピック委員会)優秀選手賞を受賞するなど破竹の勢いだった。しかし、若井氏はあえて「ここで話が終わればきれいだが、皆さんにはここからの話を聞いてほしい」と学生に語りかけた。

「現代マネジメント研究」で上映された世界選手権四連覇のスライド 「現代マネジメント研究」で上映された世界選手権四連覇のスライド

 若井氏は四歳の時に無免許の暴走バイクに跳ね飛ばされ、頭蓋骨や脊髄を損傷する大けがをした。三ヶ月以上の入院生活から退院したが、体育の授業にも出られなかった。リハビリテーションのため、小学一年生から近所の空手道場に通い始めたのが空手との出会いだった。しかし高校、大学までは競技大会で目立った活躍もなく、平凡な選手だったという。
「いつかナショナルチームの選手になり、胸に日の丸を」という夢を抱いた若井氏は、建設会社のOLをしながらランニング、筋力強化の猛練習を重ねた。終業後も社内の資材倉庫で一人黙々とトレーニングを続ける姿に、社内の同僚にも応援の輪が広がった。  
 念願のナショナルチームの選手に選ばれ、ブラジルで1998年に開かれた世界選手権に初出場し、見事に初優勝を果たしたのは二十七歳の時。さらにドイツ大会、スペイン大会と三連覇を果たし、若井氏の「不敗神話」が生まれた。
 若井氏は「二十七歳で世界選手権優勝を果たし、周囲からは遅咲きのチャンピオンと呼ばれた。しかし夢に到達する近道は一つだけではない。むしろ遠回りが目標への近道になることもある。目標に向かって行動に移した時が、その人の適齢期だと思う」と語った。
 しかし、その絶頂期に若井氏に最大の試練が訪れた。2003年の静岡国体の初戦。若井氏は無名の選手にまさかの敗退を喫した。会場のどよめきとともに若井氏が目にしたのは、信頼する空手界の指導者でもあった対戦相手のコーチが歓喜する姿だ。大きなショックを受け「それまで築き上げてきたものが壊れ、何もかも嫌になった」と当時を振り返る。

学生たちに「勇気を持って前に進んでほしいと熱く語りかける若井氏 学生たちに「勇気を持って前に進んでほしいと熱く語りかける若井氏

  敗北のショックから「引きこもり」状態になり、直近の大会も棄権した若井氏だが、立ち直ったきっかけは一本の電話だった。屈辱の体験の中で、別のライバル選手のコーチから「若井、いまやめてはだめだ。苦しいだろうが、頑張りなさい」という励ましの電話があり、若井氏は号泣したという。
「最初から強い人、永遠に勝ち続ける人はいない。本当の強さとは挫折から立ち直る力。ころんでも立ち上がる、負けない心が本当の強さだと気づいた」という。これを機に初心に帰って猛特訓を再開し、世界選手権四連覇の偉業につなげた。
さらに若井氏は指導者としても大きく羽ばたく。
 2012年に岐阜県で開催される国民体育大会に向けて、2007年に西濃運輸空手道部監督に就任した。「周囲からはやめておけと言われた。当時の西濃運輸は部員ゼロ。五年間で日本一の空手道部を作れというミッションだった」。スカウト行脚しても部員は集まらず、三年目にしてようやく三人が集まった。「正直言って空手界の落ち武者のような選手たちだった。しかし本気で選手と向き合い、日本一のチームを作ろうとした」と当時の決意を語る。その結果、国体で総合優勝を果たし、翌年の全日本実業団大会では四種目四冠を達成するなど大きく成長した。「その落ち武者が今は社会人や大学の空手道の指導者として活躍している」と後輩の活躍に目を細めた。
 若井氏は「百回やってだめなことが百一回目にできることもある。それは百回負けた経験が生きるから。むしろ負けた後、どうやってそこから立ち上がるかが大切。また自分が痛みを知ることは他の人の痛みを共有し、支える力になる。それは人生の宝物」と強調。
 最後に学生たちに「勇気を持って前に進んでほしい。試練にぶち当たることはあるが、そこから得る経験は立ち上がるための糧になる。誰もが可能性を秘めている。皆さんに素晴らしい輝く未来が待っていることを願っています」と熱い言葉でアピールし、会場の学生、市民からは大きな共感の拍手が送られていた。                                                                        

(文責・碓井 洋   写真 野口 晃一郎)

講義後の記念撮影でポーズを決める若井氏と空手道部の学生 講義後の記念撮影でポーズを決める若井氏と空手道部の学生
講義に熱心に耳を傾ける学生たち 講義に熱心に耳を傾ける学生たち

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