2026.10.02
- 教員研修
中部学院大学・中部学院大学短期大学部SD研修 古田 肇氏 講義
2026年度 中部学院大学・中部学院大学短期大学部 SD研修
「高等教育の役割~フランス国立行政学院での体験を踏まえて~」
中部学院大学客員教授、元岐阜県知事
古田 肇 氏
中部学院大学と同短期大学部の教職員を対象にしたSD研修会が9月10日、関キャンパスで開かれ、約150人が出席。本学客員教授で元岐阜県知事の古田肇氏が「高等教育の役割~フランス国立行政学院での体験を踏まえて~」と題して講演した。
フランスの高等教育機関ENAでの経験を語る古田肇氏
古田氏は通産省(現経済産業省)の官僚を経て岐阜県知事となり、昨年2月に任期満了で退任するまでの20年間、県政の舵取りを担った。通産省時代にフランスに留学し、ENA(国立行政学院)で2年間学び、フランス独自のエリート教育と官僚を中心とする人材育成のノウハウを学んだ。
フランスでは高校を卒業するとバカロレアという資格を取り、大学に進学するか、グラン・ゼコールという独特のエリート養成機関へ進む。グラン・ゼコールはフランス革命から続く伝統的な教育制度で、全国の難関競争試験に合格した人材が官僚、研究者、企業幹部を目指す。古田氏はグラン・ゼコールからさらに進んだ大学院レベルのENAに入学し、高級官僚を育てる講義を受けた。ENAの卒業生からはシラク、オランド、マクロンなど歴代大統領が輩出している。
古田氏は「ENAに行くのは日本人では初めてだった。2年間の留学は行政と政治を学ぶ毎日で、フランスのしゃれたレストランやブティックなどに行く余裕はまるでなかった」と振り返り、「ENAでの講義は実務能力、危機管理能力を具体的なケーススタデイで学ぶ。財務省や外務省の現役幹部が出てきて政治や外交の内幕を語り、学生に課題を問いかけた。実習では県知事や在外公館の大使を補佐する仕事をし、企業派遣もあった。講義は企業会計、情報処理、統計など数学系はもちろん外国語も必修だった」と日本では考えられないハードなカリキュラム内容を紹介した。
フランスの独特な高等教育について講義を聞いた教職員のSD研修
古田氏は「フランス人は母国語へのこだわりが極めて強く、フランス的明晰性として論理的、明晰な言語を大切にする。『ディセルタシオン』という小論文を書くときは論文を3章に分ける。第1章は導入部、第2章は展開部、第3章は結論。さらに各章ごとに構成部分が分れ、日本の「起承転結」や弁証法の3つの段階である「正・反・合(せいはんごう)」とも違う。内容も先人の言葉を引用するなど様々なセオリーがある。人権宣言や共和国の理念などを古典、歴史に学んで引用する。こうした論文形式を大学や高校でも教えている」とフランスの独特な教育システムを紹介した。
ENAは1945年に「国家を担う新しい高級官僚を育成する」としてドゴール大統領が目指した戦後フランスの再建プロジェクトの一環だった。エリート主義による高等教育を象徴するENAだが、2022年には廃止され、代わりにINSP(国立公共サービス学院)が設立された。廃止の理由はエリート層の固定化や官僚の国民との距離への批判だが、国家上級公務員の養成という役割は今も変わっていない。現在のマクロン大統領は「共和国の閉鎖性を打破する」として自ら母校を廃止した。
古田氏は「フランスの教育では哲学試験などを通じて弁証法的な展開で論じ、表現することが求められる。フランス市民になるための通過儀礼のようなもの」と指摘し、「私は最後に厳しい口頭試問試験をクリアすることができた。2年という短い期間だったが、フランス独特のシステムや彼らがフランス革命の普遍的価値を現在まで大切にしていることを学んだ。官僚や政治家も含めての多くの友人が出来た」と感謝した。
日本の高等教育の役割について古田氏は「日本では失われた30年と言われるが、株主優先の経済で人への投資をあまり行ってこなかった。深刻な人口減少や人手不足への対策ができていない。また急速に進むAIと人間の関係をどうするかも重要な課題。国力が相対的に低下する中で、国際化を徹底してやらなければならない。地域が疲弊して行政サービスが十分出来ない市町村も出てきており、地域のために動ける人材が求められている。人作りを担う大学は予算獲得を工夫し、大いに頑張ってほしい」とエールを送った。
講義後、本島修学長が「素晴らしい講演をありがとうございました。今後の大学教育に役立てていきたい」とお礼の言葉を述べ、片桐多恵子・済美学院長が9月13日に79歳の誕生日を迎える古田氏にお祝いの花束を贈った。
(文責・碓井 洋 写真・林 賢一)
「2年間のフランス留学は行政と政治を学ぶ毎日。しゃれたレストランやブティックに行く余裕はなかった」と振り返る古田氏
古田氏の誕生日を祝って花束を贈る片桐多恵子・済美学院長