経営学部

「現代マネジメント研究」第7回 加藤善一郎氏 講義

2019.07.09

2019年度 中部学院大学・シティカレッジ各務原/関 公開講座

第7回 『脱・「不登校」「今」を生きていますか?~
「だいじょうぶ感」をはぐくむための教育・医療連携~』
岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学 教授
岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科構造医学 教授・専攻長
加藤善一郎 氏

加藤善一郎氏

7月9日(火)第2限、第7回の「現代マネジメント研究」講演会を開催しました。二十年に及ぶ歴史を持つこの講座は、短期大学部経営情報学科時代からの伝統ある授業の一つで、市民の皆様方のご要望にお応えして一般公開してきたものを、各務原キャンパス開設の2016年度から、経営学部とシティカレッジ各務原・シティカレッジ関との連携事業とし、さらに2018年度からは全学と全シティカレッジ対象の「中部学院大学公開講座」として実施しています。

講師をお願いしたのは、岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学教授で岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科構造医学教授・専攻長でもある加藤善一郎先生です。この日は、学生約140名、市民の皆様・本学職員約80名が拝聴しました。先生は美濃市のご出身で、お話は子どもの頃の長良川をめぐる子どもの遊び場、川の中の岩の映像で始まりました。飛び込みや川底の石拾いの思い出も多く、現在は長良川漁業組合員、日本魚類学会員として自然を大切にする姿勢をご自身の医学研究にも活かしておられます。

先生は昨年の11月、『マンガ 脱・「不登校」 起立性障害(OD)克服と「だいじょうぶ感」をはぐくむ』を執筆・出版されました。今回のご講演は、この本に書かれている内容を中心に分かり易く、実例を交えてお話いただきました。

<不登校大国 日本>
「不登校児童生徒」とは「何らかの 心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間 30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を 除いたもの」(文部科学省、この部分筆者が引用)と定義されていますが、その数は近年15万人に及び、増加の一途を辿っています。小学生約4万人、中学生約11万人で、年間を通じてみると、3月が最も多く、7月が少なくなっています。地域別では富山・福井などが少なく宮城が最も多くなっています。岐阜は15位です(2016年)。いまや大きな問題になっている「不登校」ですが、文部科学省は2016年「不登校を問題行動と判断してはならない。」とし、「不登校は休養や自分を見つめ直すなど積極的な意味を持つことがある」と付記しました。しかし、本人も親も様々な形で個々の課題や悩み、状況を抱えておられ、「困り感」という点では広く共通性を持っています。

<不登校の要因としてのOD>
先生は、子どもが不登校に至る背景の2大要因として、1)ODを含む児の身体特性、2)特に中学校に著明に現れている教育システムの歪みをあげられました。まず不登校を理解する上での基本として、子ども自身の身体特性が関係していることを見いだされ、以前は教育現場での対応が主であった「不登校」を小児科からのアプローチで解決できないか研究を重ねられておられますが、皆さんに理解していただく最初の一歩として先生が着目されているのは、担当されている不登校を呈する患者さんのほとんどが合併しておられる「OD(起立性調節障害)」です。

ODの症状としてあげられるのは、「立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい」「立っていると気持ち悪くなる、ひどくなると倒れる」「入浴時、あるいはいやなことを見聞きすると気持ちが悪くなる」「朝、なかなか起きられず、午前中調子が悪い」などですが、本当は病気でつらいのに、このような症状は周りからは「怠け」ととられてしまうこともあるようです。ODでは、朝起きられない反面、夜は調子がいいので、つい夜更かししやすくなりますが、その結果昼夜が逆転しがちで、睡眠調節が難しくなってしまうことが多くなります。子どもにとって大切なのは「ネットコントロール」ですが、親の一方的な押しつけではなく、子どもの目線から、ODを克服する気持ちを育てたいものだと強調されました。また、中学を卒業していく子ども達にとっての出口戦略として、先生は、無理なく続けられる、また際だった特長を持つ学びの場として、ご自身も就学進路指導などについて協力されている「通信制高校」も紹介されました。

質問をする学生

質問をする学生

質問をする学生

質問をする学生

質問をする学生

質問をする学生

<だいじょうぶ感>
学校に行けなくなった子どもたちの多くは「子どもの世界への安心感=だいじょうぶ感」が低下しています。「だいじょうぶ感」とは、理由はともかくも「なんだか自分はOK」だと感じることだと加藤先生は言います。先生はこの「だいじょうぶ感」を、「自己肯定感」という固いことばのかわりに以前から外来診察で使ってこられました。自信がなくても、家族や先生に見守られている感じが漂っていて、子どもをとても勇気づけることばだと思います。では、この「だいじょうぶ感」を育むには何が大切なのでしょうか。加藤先生は「だいじょうぶ感」を形づくるファクターを4つあげ、「だいじょうぶ感」=(こどもの特性)X(親を含む家庭環境)X(学校などの外的環境)X(自然)+(その他のファクター)といった掛け算と足し算として表せるといいます。

まず、子どもの特性は「OD」以外にも身体能力・体力・情緒的発達特性について評価することが重要です。また親を含む家庭環境については、他のファクターよりも比較的大きな影響を及ぼすと考えられますが、それ故に、ここが変わると「だいじょうぶ感」が大きく変わる可能性があります。親が子どもへの理解を進めることがその第一歩で、親が変わるきっかけになることもあります。学校などの外的環境についても、担任の先生や校長先生に子どものことについて積極的に伝えることは大切ですが、逆に不登校の主な原因を学校のみに求めすぎないことも大切です。また、かつては子どもたちを「緩衝液」として守ってくれた「自然」が急激に遠ざかっています。親や先生を含む大人たちがそういう場を積極的に作ってやることは、子どもに「だいじょうぶ感」をとり戻してもらう絶好のチャンスと言えるでしょう。

<OD単純型と複合型 現場との連携へ>
学校に行きづらい原因となる身体特性として考えられるのは上記の「OD」のほかに「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」・「ASD(自閉症スペクトラム)」「LD(学習障害)」などがあり、ODを主とする「OD単純型」と、他の身体特性が併存する「OD複合型」に分けて対応するべきと考えておられます。合併している特性により、学校での「困り感」がより大きく・深刻になっていることが多く、保護者・学校現場での理解を進めることが必須であることを見いだされ、普段から積極的に学校の先生方との連携を進めておられます。

現代マネジメント研究第7回の様子

<教育現場の課題と「今」を取り戻す>
さらに、2大要因の2つめである「特に中学校に著明に現れている教育システムの歪み」についても言及されました。例えば、学校現場での理解が進まないと、どういった子どもへの被害が生じるかなどの具体的な事例のほか、診ておられる多くの子ども達の不登校に至る原因として、且つ、他府県の医師・教師からみても不思議だと指摘されることが多い、岐阜県の教育における指導習慣(例えば「全員挙手」「オール5運動」など)についても、その象徴的な具体例として警鐘を鳴らされていました。

しかしながら、一生懸命頑張っておられる学校の先生方を責めるのではなく、我々大人自身も、今の子ども達より少し先を走っているだけで、お互いに得手不得手を持ちながら歩みを進めている人生のランナーであるという地点に立ち戻ることが重要と述べられました。「お・た・が・い・さま」という観点から、まずは、先生方ご自身が肩の力を抜いて、こども達との「今」という時間を取り戻してほしい。「おとな」を担当している我々保護者・先生などが自分自身の「今」を失って日々過ごしてしまっています。それを取り戻す姿を見せることこそが、目の前で困り果てているこども達への貴重な贈り物となるという視点を是非共有して欲しいと伝えられました。

今の日本で不登校の問題が増大している原因は、登校しないことそのものではなく、登校しない・できないことを取り巻く様々な誤った視点が生み出す問題の複合であることを教えていただいた90分でした。

(筆者註:OD: orthostatic dysregulation、ADHD: attention deficit hyperactivity disorder, ASD: autism spectrum disorder, LD: learning disorder)

(文責:今井春昭、 写真:林賢一・野口晃一郎)

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